2010年07月06日

ダニエル・ピンク「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」


モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

  • 作者: ダニエル・ピンク
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/07/07
  • メディア: 単行本





 R+さんより発売前のダニエル・ピンクの新著の一部を献本していただきました。

 本書は、これまで企業などにおいて支配的であった人間の行動に関する仮定が通用しなくなりつつあり、それに代わるあらたな仮定の必要性、重要性、そして有効性について論じた本です。

 本書では人間の行動に関する仮定と指令体系をOSに喩え、それぞれモチベーション1.0、2.0、3.0と名づけています。1.0は人間は生存のために行動すると仮定し、2.0は報酬を求め処罰を避けるために行動すると仮定します。これまでは、そして今なお多くの企業がモチベーション2.0のOSを使用しています。しかし、このOSを使っているがために、多くの社員はやる気をそがれ、仕事への意欲をなくし、仕事への積極的関与を避け、人生の楽しみさえ失っているのだとときます。そして、それに取って代わるべき3.0は「人間には、学びたい、想像したい、世界を良くしたいという動機のもとに行動する」と仮定します。この仮定がいかに正しく、また実際に効果を上げているかを豊富な心理学、行動経済学の知見と、3.0のOSをすでに取り入れている企業の序っ奨励を上げながら説明しているのが本書なのです。

 はじめに訳者前書きとして、大前研一さんの言葉が載せられているのですが、そのなかで大前さんは、
日本企業の現状の問題点は、成果主義を採らなければ会社は一部のできる人におんぶにだっこで不公平。成果主義に走れば社内がギクシャクして不安定になる、というジレンマである p.3
と述べ、この現状を打破できるのがモチベーション3.0であると言います。

 ダニエル・ピンクは経済学が仮定する人間観の問題に言及した上で行動経済学の知見を基に
 目的達成において厄介なのは、二十年前にわたしがそう教わったように、人間はロボットと同じように機械的に富を最大化する習性があると、モチベーション2.0がみなしている点だ p.53
と述べ、「人が予想通りに不合理ならば」報酬以外のために行動することを予想してもなんら不合理ではないだろうといいます。

 そしてそれが報酬などの外から与えられる刺激に基づいた「外発的動機づけ」ではなく、「内発的動機づけ」、つまり「行為そのものが楽しい、行為そのものが報酬である」という動機によって人は行動すると述べています。
フライが述べているように、「内発的動機づけは、あらゆる経済活動にとって、"大いに重要"である。人間が唯一、あるいはもっぱら外発的なインセンティブによって動機づけられているなどとは、想定しにくい」。 p.54


 そしていくつかの企業は事実そういう方向に動き出しているのです。「匿名希望のビジネスリーダーは採用面接を行なうとき、応募者にこう告げる」らしい。
他人からモチベーションを与えられる必要がある人物を採用するつもりはありません p.60
つまり言い換えるとこういうことになるでしょうか。「十分は報酬は保障するが、報酬のためだけにしか働けない、報酬にしか興味のない人を採用するつもりはない」と。

 なぜ、このようなことがおきているかというと、ダニエル・ピンクによれば、先進国の多くはモチベーション2.0がうまく機能していたようなルーティンワーク(同じ作業の繰り返しを要する仕事)を人件費の安い諸外国に輸出し、国内に残っているのはクリエイティビティを要する仕事ばかりになっているためだからです。そのような仕事に対して2.0を適用すると結果的に社員のやる気を削ぎ、生産性は悪くなる一方だからです。

 2.0と3.0の違いをうまく言い表しているのがマーク・トウェインの言葉です。
"仕事"とは、他人に"強制"されてやることで"遊び"とは、強制されないでやることである p.64


 この"強制"という言葉に深く結びつくのが"自律性"です。我々はよく、「あれをしたらこれをあげる」といった内容のことを言います。「宿題をしたらご褒美を」「お手伝いをしたらお小遣いを」といった具合にです。しかしダニエル・ピンクはこのような
「交換条件つき」の報酬は、自律性を失わせる p.67
と言います。自発的にやっていたようなことでも報酬を与えたとたんに、それは"強制"された行動になる可能性があるということです。

 また報酬は創造性を下げる可能性もあることを心理学の知見を基にダニエル・ピンクは紹介します。
報酬には本来、商店を狭める性質が備わっている。解決への道筋がはっきりしている場合には、この性質は役立つ。前方を見すえ、全速力で走るには有効だろう。だが、「交換条件つき」の動機づけは、ロウソクの問題(画鋲の箱をロウソク台に転用する)のように発想が問われる課題には、まったく向いていない。広い視野で考えれば、見慣れたものに新たな用途を見つけられたかもしれないのに、報酬により焦点が絞られたせいで功を焦ってそれができなかったのである。 p.75


 同じことは芸術にも言えることのようで、
「絵画にしろ彫刻にしろ、外的な報酬ではなく活動そのものに喜びを追い求めた芸術家のほうが社会的に認められる芸術を生み出してきた。結果として、外的な報酬の追求を動機としなかった者ほど、外的な報酬を(生涯では)得た」 p.77
という皮肉な結果を示す調査があるそうです。

 さらに2.0の問題点として、処罰の存在が「処罰されるべき行動を増大する」ということがあります。ある保育園で子どもの迎えが遅くなった親に対して罰金を貸すことにしたそうです。これは保育園が残業を強いられた保育士に残業代を払わなくて済むようにするための処置でした。しかし結果は、遅刻する親が増えるというものでした。これは、保護者には保育士に対して「公平な態度で接したい」「きちんと時間を守りたいという内発的動機づけ」を罰金という脅威が奪ってしまったためです。
罰金のせいで、保護者の決断のよりどころは、いくらかは道徳的な義務感から、純然とした取引("お金を払えばすむんでしょ”)へと移った。両者が共存する余地はなかった。罰金は、善良な行動を促さずに、むしろ締め出したのだ。 p.86


 エドワード・デシ(内発的動機づけの研究で有名)の学生であったリチャード・ライアンは言います。
「人の性質に"根本的な"何かがあるとすれば、それは興味を抱く能力だ。その能力を促進するものもあれば、蝕むものもある」 p.110
つまり(能力を発揮したいという)有能感、(自分でやりたいという)自律性、(人々と関連を持ちたいという)関係性という三つの欲求が満たされているとき、その能力は促進されます。一方、それらを満たさないような環境、つまり有能感を感じられないルーティンワーク、自律性を奪う、金のためにやっているという感覚をもたらすような報酬によって構成されるような環境(2.0で統制された世界)ではその能力は蝕まれるのです。

 後半ではより具体的に3.0を構成する三つの要素、自律性、マスタリー(熟達)、目的について言及していきます。

 今回いただいた献本では、マスタリーの章までしか読めなかったのですが、そこでは「努力」重要性が書かれています。
 キャロル・ドゥエックが言うように、「努力とは、人生に意味を与える諸々の事柄の一つである。努力をするということは、その対象となるものに意味があるとあなたが見なすことである。それが重要だからこそ、人はいとわずに努力するのだ。もし何にも価値を見出さなかったり、価値あるものに向けて熱心に努力しないようであれば、あなたの人生は不毛となるだろう」 p.180


 バスケットボールの殿堂入りを果たしたDr.Jことジュリアス・アービングは
「プロフェッショナルとは自分が心から愛することをするということだ。たとえどんなに気乗りがしない日であっても」 pp.180-181
と言います。最後の一文に重みがありますが、一流と呼ばれる人はみな、自分がやっていることに対して情熱を持っているように感じます。また、自分もその人たちに負けないような情熱を持ちたいなと思います。

 フランスの画家、セザンヌの不朽の名作といわれる作品の大半は、晩年に描かれたそうです。「これはセザンヌが生涯一貫して自分の最高作品を描こうとしていたから」だそうです。タイガー・ウッズは「自分はもっと上達できる――上達しなくてはいけない」と何回も語っているそうです。ダニエル・ピンクはマスタリーへの道は決して到達することのない漸近線であると言います。
 マスタリーの漸近線は、欲求不満を引き起こす。なぜ、人は完全に到達できないものを求めるのだろうか。だが一方でそれが魅力でもある。だからこそ、到達しようとする価値がある。喜びは、実現化することよりも追求することにある。とどのつまり、マスタリーはどうしても得られないからこそ、達人にとっては魅力的なのである。 pp.182-183
タイガー・ウッズは自身がマスタリーに到達できないと分かっているといいます。「達人」にとって到達できないからこそ「マスタリー」が魅力的とはいささか矛盾に満ちた表現ですが、「マスタリーを求めぬく中に達人は存在する」のかなと僕は感じました。

 マーク・トウェインが表現しているように究極的には、それが仕事であれ、遊びであれ、「行動そのものが楽し」くなければやる意味はありませんし、人生を豊かにすることは困難です。ポジティブ心理学の大家であり、ある行動自体が報酬になっている状態に人が経験する「フロー」の研究で有名はチクセントミハイは言います。
 仕事と遊びの境界が人為的なものだと気づけば、問題の本質を掌握し、もっと生きがいのある人生の創造という難題に取りかかれる p.186


 いま、自分のやっていることにやりがいが感じられない、よりよい人生を創造したい、あるいは自分の部下たちにもっとやりがいを持って仕事に取り組んでもらいたいと思っている方はぜひ一度、読んでみてはいかがでしょうか。



【関連記事】
僕が運営しているもう一つのブログで努力の重要性について書いた記事もよかったらどうぞ。
天才に必要なものは努力 ―スピードスケート清水宏保から加藤条治へのメッセージ
二人の天才―浅田真央とキムヨナ―
名言3:ヨハン・セバスチャン・バッハ
あなたが天才になるまでの時間


以下、誤字脱字
特定の結果を達成した「こと」よりも、 p.105
解明しようとした「。」学者たち。 p.178
posted by ごとうP at 17:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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